Amikakeを作った理由

はじめまして。数年前に編み物の楽しさを知った、普段はITの業界でデザイナーとかエンジニアをやっている者です。なぜ、Amikake(あみかけ)という編み物のプラットフォームを作ったのか書き記しておきたいと思います。
編み物を始めて引っかかることがありました。パターンを探すのがいつも大変なことです。
気に入ったデザイナーさんのパターンを買おうとして、その方のネットショップを開く。次に別の方のものが見たくなって、今度は別のショップへ。また別の人は、ハンドメイドマーケットにいる。糸メーカーのサイトにも無料レシピがあって、充実したレシピを丁寧に公開しているところもあります。ブラウザのタブがどんどん増えていく…。
デザイナーさんが自分のブランドサイトを作れたり、メーカーが自社の糸に合わせたレシピを紹介していたり、それぞれの場所にそれぞれの良さがあります。それは間違いありません。
ただ、編む側から見るとパターンを探すという行為が、あちこちのウェブサイトを渡り歩くことになってしまっています。素晴らしいパターンが、それぞれの場所に閉じてしまっていて、出会えないままになっていることも多いです。横断して探す手段がないのはもったいないなと思いました。
もうひとつ、気になっていたことがあります。
編み物には、長い時間をかけて積み重ねられてきた知識があります。技法、糸の扱い方、サイズの合わせ方、うまくいかないときの対処法。「この糸だと1割ゆるめに編んだほうがいい」「この減らし目はこう置くときれい」。そういう、誰かが試行錯誤の末にたどり着いた小さな知識。
デジタルの世界には、まだちゃんとした日本語に特化した置き場所がありません。どこかのSNSで交わされた会話も、時間が経てば流れて埋もれてしまう。せっかくの知識が見つけられないまま消えて行きます。
パターンは買って終わりではなく、そこに編んだ記録やノートや質問が集まっていく。調べたいことがあったときに、きちんと見つかる。そうやって知識が積み重なって、残っていく場所があったらいいなと思いました。
そしてその場所は、日本の編み物文化を当たり前に扱えるものでありたい。JIS編み図記号、号数表記、段ごとの指示書形式、国内で流通している糸。日本で編み物をする人にとって自然な言葉と体系で、知識が積み重なっていく場所。日本独自の編み物の知識をきちんとデジタルに残していくこと自体に、意味があると思っています。残っていれば、将来どんな形であれ活用できるはずです。
作るにあたって、ひとつ決めたことがあります。Amikakeには、いいねボタンがありません。フォロワーの数も表示されません。パターンのランキングもありません。これは、機能を作る余裕がなかったわけではなく、意図的に置いていません。
SNSやいろいろなプラットフォームには、いいね、フォロワー数、ランキングがだいたいあります。アテンションエコノミーと言われるもので、ユーザーの注意を引き続けることがサービスの成長につながる仕組みです。それ自体を否定するつもりはありません。ただ、Amikakeでは置かないことにしました。
いいねの数が気になって画面を確認してしまう時間。ランキングを見て、人気のパターンばかりが目に入る状態。フォロワーの数字が視界に入って、つい誰かと比べてしまう瞬間。そういうものが、編み物を純粋に楽しむ助けになるとは思えませんでした。
編み物をしている時間は、手を動かして、目を数えて、形ができていく時間です。Amikakeがやるべきことは、その時間を支えることであって、いたずらに画面の前に引き留めることではないと思っています。
必要なパターンを見つけて、買って、編み物に戻る。わからないことがあったら調べて、見つけて、また編む。Amikakeの成功は、ユーザーがAmikakeを使わない時間(実際に編んでいる時間)が豊かであることだと思っています。
パターンに星評価をつけないのも、同じ理由です。ランキングがあると、デザイナーさんが「売れ線」を意識してパターンを作るようになるかもしれません。多様なパターンが多様なまま存在できるほうが、編む人にとっても、作る人にとっても健全だと思います。
Amikakeは、目立つ場所を目指していません。パターンを見つけて、知識を調べて、記録を残して、必要なときに戻ってくる。そういう静かなインフラでありたいと思っています。編み物を始めたときに、こういう場所があったらよかったなと思った気持ちが出発点です。
静かなインフラと言っても使ってくれる方々がいなければサービスは成り立ちませんので、矛盾をはらみながら、まとまらない考えをなんとかまとめようと頑張っております。編み物が好きな皆さまに少しでも興味を持っていただけると嬉しいです。
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